住宅ローンの諸費用や保障を金額に換算して比較する家庭のイメージ

かつてマイナス金利政策のもとで繰り広げられた住宅ローンの金利引下げ競争は、完全に局面が変わりました。日本銀行は2026年6月16日に政策金利を1.0%程度へ引き上げ、3メガバンクは2026年8月3日に短期プライムレートを年2.125%→2.375%へ引き上げました。金利は「下げ合う」ものではなく「上げていく」ものになったのです。

それでも、住宅ローン選びで金利以外の要素が決め手になる場面は、むしろ増えています。上昇局面でも各行の変動金利は0.9〜1.3%台に集まっており、金利差はせいぜい0.3〜0.4%。一方で、事務手数料・団信・優待の差は数十万円〜100万円単位で開くからです。金利表の外側にある「差別化ポイント」を、2026年8月時点の事実で確認しましょう。

金利差が小さいときほど、諸費用と特典が効く

たとえば3,000万円を35年で借りる場合、金利0.1%の差は総返済額でおよそ59万円です。一方、事務手数料が「借入額×2.20%(税込)=66万円」か「定額55,000円」かの差は、その場で60万円。疾病保障を年0.2%上乗せするなら、35年で約119万円の負担増です。

つまり、金利の小数点第2位を追いかけるより、諸費用・保障・優待を点検したほうが、動く金額は大きいということです。これは金利が下がっていた時代から変わらない構造で、上昇局面でも同じように効いてきます。

買い物優待で差別化——イオン銀行「イオンセレクトクラブ」

.イオン銀行の「イオンセレクトクラブ」
イオン銀行の住宅ローン(フラット35を含む)を借り入れると、契約者特典として「イオンセレクトクラブ」に入会でき、専用の「イオンゴールドカードセレクト<イオンセレクトクラブ>」でイオングループの対象店舗をクレジット決済すると、ローン完済まで毎日5%割引になります(イオン銀行の口座を返済用口座に指定するなどの条件があり、入会には所定の審査があります)。

イオン銀行の公式コラムでは割引金額に上限はないとされており、日常の買い物をイオングループで完結させている家庭ほど効きます。仮に対象店舗での支出が月5万円なら、5%=月2,500円。年3万円・35年で105万円相当——金利差0.1%(約59万円)より大きな金額です。

ただし、この特典は「イオングループで買い物をする人にしか価値がない」点に注意してください。ライフスタイルが変わって利用しなくなれば、その価値はゼロになります。金利や手数料と違い、特典の価値は使う人によって変わるのです。

優待サービスで差別化——SBIアルヒ「ARUHI暮らしのサービス」

.SBIアルヒの「ARUHI暮らしのサービス」
フラット35の実行件数シェアで2025年度27.7%・16年連続No.1のSBIアルヒ(旧・ARUHI/アルヒ)は、住宅ローン審査に申し込んだ顧客向けの優待サービス「ARUHI暮らしのサービス」(旧・ARUHIメンバーズクラブ)を提供しています。
※2010年度-2025年度統計、取り扱い全金融機関のうち借り換えを含む【フラット35】実行件数(2026年3月末現在、SBIアルヒ調べ)
引越し・インテリア・家電・カーライフ・子育てなど、住宅購入後の暮らしに関わる提携サービスを優待価格で使えるという設計です。提携先や特典内容は入れ替わるため、最新のラインアップは公式サイトでご確認ください

ポイント特典は「終了する」——SBI新生銀行の例

かつてSBI新生銀行(当時の新生銀行)が実施していた「Tポイント×住宅ローン」(毎月1,000ポイント×10年)は、すでに終了しています。ポイント付のステップダウン金利タイプは2024年1月19日契約分をもって終了し、その後継のステップダウン金利タイプも終了しました。Tポイント自体もVポイントへ統合されています。

ここに特典で銀行を選ぶことの落とし穴があります。ポイント・キャンペーンは数年で終わりますが、住宅ローンは35年続きます。特典を主な理由に借入先を決めると、特典が終わった後には「金利と手数料だけが残る」ことになりかねません。

なお、SBI新生銀行が現在も提供しているのは、特典ではなく商品設計そのものの強みです。保証料0円・一部繰上返済手数料0円(1円から何度でも)・一般団信の上乗せ0円に加え、2026年3月からは全疾病保障付団信も上乗せ0円で選べるようになりました(事務取扱手数料は借入金額×2.20%(税込)の定率型)。店舗相談とオンライン手続きの両方に対応している点も含め、「終わらない差別化」として評価できます。

保障で差別化——ドコモの銀行(旧・住信SBIネット銀行)「スゴ団信」

.ドコモの銀行の全疾病保障(スゴ団信)
かつて「8疾病保障」と呼ばれていた保障は、現在は「全疾病保障」を基本付帯する「スゴ団信」へ発展しています。保険料は同行が負担するため、借り手の追加負担(上乗せ金利)はありません。すべての病気やケガで所定の就業不能状態が続いた場合に返済が保障される設計で、年齢に応じて3大疾病の保障が加わる場合もあります(付帯範囲・支払要件は公式サイトで確認してください)。

保障を上乗せ金利で買うと、前述のとおり0.2%=35年で約119万円。それが0円で付くなら、実質的な値引きと同じ意味を持ちます

「金利以外」を総支払額に換算して比べる

金利以外の差別化要素は、感覚では比べられません。すべて35年の金額に換算すると、判断が一気に楽になります。

金利以外の要素が35年でいくらの差になるかを示す横棒グラフ
金利0.1%の差より、団信の上乗せや優待の方が金額のインパクトが大きくなることがある。優待は利用実態に依存するため、使わなければ価値はゼロ。

比較の観点差の大きさ(3,000万円・35年の目安)注意点
金利0.1%の差総返済額で約59万円完済まで確実に効く。もっとも予測しやすい差
事務手数料(定率2.20%と定額55,000円)借入時に約60万円定額型は金利が高めに設定されることが多く、金利差との合算で判断する
疾病保障の上乗せ0.2%総返済額で約119万円上乗せ0円で付く銀行なら、その分が実質的な値引き
買い物優待5%(月5万円利用)35年で約105万円相当使わなければ価値ゼロ。生活圏に依存する
ポイント・キャンペーン数万〜十数万円程度終了・改定される前提で考える(例:SBI新生のTポイント特典は終了)

こうして並べると、優先順位は「①金利 ②団信(上乗せの有無) ③事務手数料 ④優待 ⑤ポイント」と整理できます。優待やポイントは「同じような条件の銀行で迷ったときの最後のひと押し」に使うのが健全な距離感です。

金利上昇局面で、差別化の見方はこう変わる

金利が下がり続けていた時代、「金利以外で選ぶ」のは横並びの中から選ぶための工夫でした。金利が上がる2026年、それは上昇コストを少しでも吸収するための工夫に変わります。

実際、全期間固定の代表である【フラット35】は、2026年8月の最も多い金利が年3.290%(融資率9割以下・返済期間21〜35年・新機構団信付き)で、前月の年3.140%から0.150%上昇しました。3,000万円・35年で見れば、この1か月の上げ幅だけで総返済額はおよそ90万円増える計算です。金利の動きが1か月で「事務手数料1回分」を上回ることもある——だからこそ、自分の力で下げられる諸費用・保障・優待の部分を落とさずに詰めておく意味があります。

変動金利を選ぶなら、5年ルール・125%ルールの有無や繰上返済手数料の有無まで含めて固定金利を選ぶなら、事務手数料の定額型・定率型の違いまで含めて。金利が上がるほど、こうした「金利以外の設計」が家計に効いてきます。

金利面だけでなく、各行の商品設計・保障・優待まで含めた総支払額で選ぶ——この基本は、金利が下がる時代にも上がる時代にも変わりません。

属性によって、効いてくる「金利以外」は変わる

ここまでの比較は、どの借り手にも共通する話です。ただし自営業・転職直後・ペアローンといった条件が絡むと、優先すべき「金利以外」の順番そのものが入れ替わります

自営業・個人事業主:借入額が小さくなりがちだからこそ手数料タイプが効く

自営業や個人事業主の場合、審査で見られるのは会社員のような額面年収ではなく、確定申告書の所得です。そのため希望より借入額が小さくまとまることが少なくありません。ここで効いてくるのが事務手数料のタイプです。

定率型(借入額×2.20%)は借入額に比例するため、借入額が小さいほど手数料も小さくなります。一方の定額型は、借入額にかかわらず一定額です。借入額が小さいケースでは、定額型のほうが割高になる分岐点を下回ることがあるため、金利が低い定率型が有利に働く場面が増えます。「定額型=安い」と思い込まず、自分の借入額で両方を試算してください。

転職直後:勤続年数の条件が「金利以外」の最大の壁になる

転職して間もない時期は、金利や手数料より先に「そもそも申し込めるか」が問題になります。民間の住宅ローンは勤続年数の条件を設けていることが多く、金利の低い銀行ほど条件が厳しい傾向もあります。

この点で選択肢になりやすいのが【フラット35】です。勤続年数そのものを一律の条件としていないため、転職直後でも土俵に乗れる可能性があります。ただし収入の見方や必要書類は取扱金融機関で異なるため、申し込み前に確認してください。「借りられる銀行」が絞られる状況では、金利の小数点以下より条件そのものを優先するのが現実的です。

ペアローン:契約が2本になると「1本あたり固定でかかる費用」が2倍になる

夫婦それぞれが債務者となるペアローンでは、住宅ローン契約が2本になります。ここに、金利表からは見えないコストが生まれます。

  • 定額型の事務手数料は2本分かかる(定率型なら合計借入額に対する料率なので総額は変わらない)
  • 契約書ごとにかかる印紙税や、抵当権設定にともなう司法書士報酬も2本分になりやすい
  • 団信は自分の借入分しか保障されない——一方が亡くなっても、もう一方の残債は残る

とくに3点目は見落とされがちです。ペアローンで上乗せ0円の疾病保障や連生団信(夫婦どちらに万一のことがあっても残債が0円になるタイプ)を用意している銀行を選ぶ意味は、単独で借りる場合より大きくなります。手数料タイプについても、定額型を選ぶなら「2本分」で見積もることを忘れないでください。

「金利以外」でよくある疑問

Q. 事務手数料が「定額型」の銀行は、結局おトクなのですか?

A. 借入額と返済期間しだいです。定額型は初期費用を抑えられますが、そのぶん金利が高めに設定されているのが一般的で、借入額が大きく期間が長いほど金利差が積み上がって逆転します。逆に借入額が小さい、期間が短い、早期に繰上返済する予定があるなら定額型に分があります。「手数料が安い=総支払額が安い」ではないことだけは押さえておきましょう。

Q. 上乗せ0円の疾病保障が付くなら、民間の医療保険は解約してよいですか?

A. おすすめしません。住宅ローンの疾病保障が保障するのは、あくまで住宅ローンの残債や毎月の返済額であって、治療費や生活費ではありません。また、支払要件(所定の就業不能状態が一定期間続くことなど)は商品ごとに細かく決まっています。保障される範囲が重なるかどうかを条件表で突き合わせてから、既存の保険の見直しを検討してください。

Q. 借りたあとに優待やポイント特典が終了したら、借り換えるべきですか?

A. 特典の終了だけを理由に借り換えるのは、多くの場合わりに合いません。借り換えには事務手数料・登記費用などの諸費用が改めてかかり、数十万円単位になることも珍しくないからです。年数万円の特典が消えた程度では回収できません。借り換えを考えるのは、金利差という本体部分に動きがあったとき——この線引きが、本文で述べた「特典で銀行を選ばない」の裏返しになります。

Q. 「保証料0円」をうたう住宅ローンは、本当に諸費用が安いのですか?

A. 保証料0円のかわりに、事務手数料が定率型(借入額×2.20%など)になっているケースが多いため、単独では判断できません。保証料型(保証料を別途支払い、事務手数料は定額)と定率型は、費用の置き場所が違うだけで総額は近くなることもあります。「保証料+事務手数料」を合計した金額で比べるのが正しい比べ方です。なお保証料は繰上返済や完済で一部が戻ることがある一方、事務手数料は原則戻らないという違いもあります。

※本記事の特典・保障・手数料は2026年8月時点の各社公表内容です。優待やキャンペーンは終了・改定されることがあるため、最新の取り扱い状況は必ず各金融機関の公式サイトをご確認ください。

 

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